粒子の崩壊と寿命

原子核素粒子の崩壊と平均寿命の関係について整理してみる。http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1283622002のQ&Aをきっかけに自己の認識の中にあった穴を埋めることができた。


粒子の崩壊は,純粋な意味で確率的な過程であることが知られている。したがって,その崩壊を支配する微分方程式は,

\displaystyle\frac{dN}{N} = -\lambda dt

と書ける。Nは残存粒子数であり\lambdaは崩壊定数と呼ばれる。積分すると,

N = N_0 e^{-\lambda t} = N_0 e^{-t/\tau}

を得る。\tau = 1/\lambdaは寿命と呼ばれ,崩壊までの平均時間を表す。

以上はポピュラーな粒子崩壊の数学であるが,寿命=崩壊までの「平均時間」という理解に穴があったので,それを埋める考察をしてみた。

時刻tからt+dtまでの間に崩壊する粒子に対する年齢の和は,t|dN|であるから,崩壊までの平均時間は

\displaystyle\frac{\int t|dN|}{N_0} = \frac{1}{\tau}\int_0^\infty t e^{-t/\tau} dt

 = \displaystyle\frac{1}{\tau}\left(\Big[-t\tau e^{-t/\tau}\Big]_0^\infty + \tau\int_0^\infty e^{-t/\tau} dt\right)

 = \int_0^\infty e^{-t/\tau}dt = \Big[-\tau e^{-t/\tau}\Big]_0^\infty = \tau

となる。寿命は単に残存粒子数が1/eに減少する時間,などという半端な意味ではなく,まさに平均寿命なのである。ちなみに,寿命はt-Nグラフの面積をN_0で割ったものとなるから,通常描かれる崩壊のグラフを縦横ひっくりかえしたものの「平均値」となるわけだ。

http://www14.atwiki.jp/yokkun?cmd=upload&act=open&pageid=564&file=Jumyou.bmp

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陽子の寿命が10^{33}年ならば、10^{33}の陽子を集めれば1年に1個の陽子の崩壊が観測できることになる。(Wikipediaより)

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こわれる粒子数は,

N_0 - N = N_0\left(1 - e^{-t/\tau}\right)

|x|\ll 1のとき,

e^x \simeq 1 + x

したがって,時間経過が寿命\tauより十分小さければ

N_0 - N = N_0\times\displaystyle\frac{t}{\tau}

N_0=10^{33}, t=1{\rm y}, \tau=10^{33}{\rm y}を代入すると,

N_0 - N = 1

となるわけだ。