回転の記述と軸性ベクトル(1)

OKWaveに,角速度ベクトルの方向が回転面に垂直であるのはなぜか?という物理数学上の基本問題が投げかけられた。ポイントを覚え書きとしてまとめておきたい。\quad


質問の要点は,たとえば xy 平面内の回転運動を記述する上で,角速度ベクトルを

\boldsymbol{\omega} = \omega \boldsymbol{e}_z

z方向のベクトルとして表すのはなぜか,というものである。さらに質問者は,回転運動の速度が

\boldsymbol{v} = \boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r}

と書けることの便宜性に気づき,この便宜性のために\boldsymbol{\omega}の方向を回転軸方向と定義しているのではないかとの推測の妥当性を問うている。

いくつかの回答がついたが,そのほとんどが質問者の率直な疑問に共感を示しながら,真摯に概ね妥当と思われる説明をしている。私も回答に参加させてもらいながら,自分自身あらためて理解を深めることができたので,この疑問に関るポイントを覚え書きとしてまとめておく。

(1) 回転速度の記述

ddt^3氏の回答の概要を引きつつ,回転運動の記述方法に関する数学的な基本問題を整理しておこう。

まず角速度ベクトルを考えるためには,線速度を考えなければならない。そして線速度を定義するためには,無限小の変位ベクトルを考える必要がある。そこで,無限小の回転による位置ベクトルの変化(無限小の変位ベクトル)を考察する。

 {\rm T} を無限小の回転を表す直交行列とする。{\rm T}の具体的な形はたとえばz軸まわりの回転であれば,

{\rm T} = \left(\begin{matrix}\cos\delta \quad -\sin\delta \quad 0\\ \sin\delta \qquad \cos\delta \quad 0\\ 0\qquad\qquad 0 \qquad 1\end{matrix}\right) = \left(\begin{matrix}1 \quad -\delta \qquad 0\\ \delta \qquad 1 \qquad 0\\ 0\qquad 0 \qquad 1\end{matrix}\right)

のようなものとなる。回転角 \delta は無限小であることに留意する。

すると,回転による微小変位ベクトルは,

d\boldsymbol{r} = {\rm T}\boldsymbol{r} - \boldsymbol{r} = ({\rm T} - {\rm I})\boldsymbol{r}

と書ける。{\rm I}単位行列である。ここで

\boldsymbol{\varepsilon} = {\rm T} - {\rm I}

とおけば \boldsymbol{\varepsilon} は微小な回転変位(微小な回転による単位行列からのずれ)を表す行列となる。

\boldsymbol{\varepsilon}の性質を調べる。

{\rm T}とその転置との積をとると,

{\rm T}\;^t{\rm T} = (\boldsymbol{\varepsilon} + {\rm I})(^t\boldsymbol{\varepsilon} + {\rm I}) = \boldsymbol{\varepsilon} + ^t\boldsymbol{\varepsilon} + {\rm I}

となる。\boldsymbol{\varepsilon} の積の項は2次の無限小となるので落とした。

ここで直交行列において

{\rm T}\;^t{\rm T} = {\rm I}

であるから,

\boldsymbol{\varepsilon} + ^t\boldsymbol{\varepsilon} = 0

すなわち \boldsymbol{\varepsilon} は反対称行列となり,一般に次のように書ける。

\boldsymbol{\varepsilon} = \left(\begin{matrix}0\qquad -d\theta_z \qquad d\theta_y\\d\theta_z\qquad 0 \qquad -d\theta_x\\-d\theta_y\qquad d\theta_x \qquad\quad 0\end{matrix}\right)

これを用いれば,速度ベクトルが

\boldsymbol{v} = \boldsymbol{\Omega}\boldsymbol{r} = \boldsymbol{\omega}\times \boldsymbol{r}\quad,\quad \boldsymbol{\Omega}=\frac{\boldsymbol{\varepsilon}}{dt}

と書けることになる。結果的に回転の速度は反対称テンソル\boldsymbol{\Omega}によって表され,この2階反対称テンソル\boldsymbol{\Omega}との行列積は結局,角速度ベクトル\boldsymbol{\omega}とのベクトル積に同等であることが示された。

回転の記述と軸性ベクトル(2)
http://yokkun831.hatenablog.com/entry/2018/11/01/093836
へ続く
(初稿:2012/01/28)