回転の記述と軸性ベクトル(3)

回転の記述と軸性ベクトル(2)に引き続いてベクトル積と軸性ベクトルの関連を考察する。

(3) ベクトル積と軸性ベクトル

回転の記述と軸性ベクトル(1)において,本来ベクトル積と軸性ベクトルは,2階反対称テンソルとして記述されるべきものをその双対をとって階数を1下げる「便宜」によって発明されたものであることに触れた。たとえば,回転による速度は

\Omega \boldsymbol{r} = \boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r}\quad,\quad\Omega = \left(\begin{matrix}\quad 0 \quad -\omega_z \quad \omega_y\\ \omega_z \qquad 0 \quad -\omega_x\\ -\omega_y\quad \omega_x \qquad 0\end{matrix}\right)

これは,

\Omega = ^*\boldsymbol{\omega}

という双対関係を根拠としている。しかし,一般にベクトル積

\boldsymbol{A}\times\boldsymbol{B}

は,上のような根拠から独り歩きして,ベクトルの軸性・極性に関らず2つのベクトルの間の演算として定義されている。したがって,極性ベクトルどうしのベクトル積もまた意味をなし,それが軸性ベクトルを生成するというわかりにくいが便利な記述をもたらす。たとえば,ベクトル \boldsymbol{A},\boldsymbol{B},\boldsymbol{C}スカラー三重積

\boldsymbol{A} \cdot (\boldsymbol{B} \times \boldsymbol{C}) = \boldsymbol{B} \cdot (\boldsymbol{C} \times \boldsymbol{A}) = \boldsymbol{C} \cdot (\boldsymbol{A} \times \boldsymbol{B})

が,3つのベクトルの張る平行六面体の体積になることはよく知られている。この場合ベクトル積は,2つのベクトルが張る平行四辺形の面積を大きさとし,平行四辺形に垂直なベクトルを生成する役割を担っている。まさに,これが面を表す軸性ベクトルになるわけだ。そしてこの面ベクトルに対して残るベクトルの正射影=スカラー積をとることで高さを引き出して体積を得ることができる。

面積が(その表裏を含めて)法線ベクトルで一意に指定されることは,微分形式の外積を用いることでもその根拠を示すことができる。たとえば,\boldsymbol{A},\boldsymbol{B}xy平面上のベクトルであるとすると,
(A_xdx + A_ydy) \wedge (B_xdx + B_ydy)\\
= A_xB_xdx \wedge dx + A_xB_ydx \wedge dy + A_yB_x dy \wedge dx + A_yB_y dy \wedge dy\\
= (A_xB_y -A_yB_x)dx\wedge dy

となる。ここで,外積演算自体がもつ反対称性

dx\wedge dx = 0,\quad dy \wedge dx = -dx\wedge dy

等を用いた。

このように面を記述するのに法線ベクトルで代用できるという便宜は,まさに3次元空間における面素(たとえば dx\wedge dy )がそれに垂直な線素(dz)と双対をなすということを根拠にしているのである。したがって,この関係は3次元空間限定であり,たとえば4次元時空にそのまま適用することはできない。

この面ベクトルという軸性ベクトルは,ガウスの定理やストークスの定理,またガウスの法則等の記述にもよく使われている。

\displaystyle\int_S \boldsymbol{A}\cdot d\boldsymbol{S} = \int_V \nabla\cdot\boldsymbol{A}dV

回転の記述と軸性ベクトル(4)
http://yokkun831.hatenablog.com/entry/2018/11/01/105502
へ続く
(初稿:2012/01/30)