動く光源はなぜ斜めに光を出すのか?

かつて私も疑問に思いながら,深く考えることなく未解決のまま忘れていたものである。
Yahoo!知恵袋>http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail.php?qid=1142338881から。

再掲にあたっての注釈
光に「慣性の法則」は適用できない、というような観点からこうした議論が誤りであるかのような声がネット上でたまに見られる。今まで、そうした批判の意図するところがよくわからなかったが、最近何となくわかってきた。慣性の法則の土台となっているのが相対性原理であるが、光に対する相対性原理の適用に対して、「慣性=運動状態を変えようとする力への抵抗、すなわち質量」を対象とする古典的な「慣性の法則」の解釈にとどまって「光に慣性はないはずだ」と批判しているわけだ。もちろん、相対性理論の基礎をなす相対性原理は、古典的解釈による「慣性」=質量のみを対象としたものであるはずがない。座標系の相対性の表明にこそ、その意義があることはいまさらいうまでもない。(2018/11/13 記)
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下図は拙著「相対論入門セミナー」http://www.geocities.jp/yokkun831/relatP2.pdf
に掲載の「らくがき」である。質問の意味をただちに理解していただけるだろう。静止している光源が上方へ光を発するとき,なぜ,運動する光源はななめに光を発するのか。
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かつて私もこれを疑問に感じたことを思い出した。そのときは深く考えることもなく,未解決のまま保留して,すっかり忘れてしまった。今こうして疑問に答えられるようになった自分をほめてあげたい…かな? 以下,回答の転載。
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図で上は,点光源から穴やレンズを通して光束が絞られる場合。下は,レーザー発振の場合を描いたつもりです。

点光源では,四方八方に発する光のうち穴(レンズ)を通るものだけが出て行くのですから,光源装置が運動している場合に斜め方向に進んだ光が運よく出て行くことになるでしょう。

レーザー発振器のような場合にも,同様です。発振において光は装置内で定常波をつくるのですが,装置が運動している場合に装置内の時間は遅れて見えますから,光の振動数が減少して波長が伸びて見えます。すると,図の斜めの距離がまさに伸びた波長の光が定常波をつくるのにちょうどよいわけです。

どんな光源を考えても,光源の静止した系である方向にのみ進むように調整された光源では,光源が運動して見える慣性系に移ると必ず,斜め方向に出るようになるはずですから,いろいろ考えてみてください。これが成立しなければ,光はまさに相対性原理を破ることになり,相対性理論が土台から崩壊します。
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補足:もうひとつ例が思い浮かんだので紹介します。

光は電波と同じ電磁波です。運動方向に伸びた導線(アンテナ)に高周波電流を流すと導線から見て垂直に電波が発射されます。これを静止系から見るとどうなるか。同時の相対性によって導線の進行方向前方の時刻は遅れて見え,後方の時刻は進んで見えます(これが進行方向が縮んで見えるローレンツ短縮の原因となります)。すると,電磁波の同じ位相部分は前方より後方が早く出るように見えます。電波の進行方向は,各部から発射される電波の重ねあわせによって強めあう方向になりますから,電波は進行方向前方に傾いて発射されることになると思います。
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動く光源はなぜ斜めに光を出すのか?(2) - 科学のおもちゃ箱@Hatenaへ続く

(初稿:2010/06/16)