滑車が糸から受ける力

滑車が糸から受けるのは張力ではない? 基礎力学の問題に潜む「ゴマカシ」=単純化にメスを入れて解明する。Yahoo!知恵袋>http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1148986416のQ&Aから。


動滑車を含む問題や,滑車と糸を通じて相互作用する三体の相対運動の問題等で出てくる,「滑車が糸から受ける張力」への疑問とその解決について考えてみた。通常の解答解説には,図のように滑車が糸から張力を受けるとして説明されている。私もこの説明には何やらキモチワルサを感じたことがあったが,そのままになって忘れていた。特に質問者は,右図のような状態で物体は「自ら」下に運動しているのに,台が糸から斜め上方に引かれるというのは納得がいかないと述べている。この疑問には,張力に対する理解不足に原因のある一種の「迷い」も含まれているようだが,ここでは,結ばれていない糸からどうやって張力を受けるのか,という本質的な部分に焦点を当ててみたい。
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もちろん滑車と糸の質量は無視してよいものとされている。だから,滑車の部分はなめらかな円筒面でもよいわけで,その場合摩擦は無視できるということだ。さて,結ばれていない以上,滑車は糸から張力を受けるはずがない,と言い切ってしまおう。すると,多くの解説にあるような張力としての説明で,なぜ矛盾を生じないのか?

台が糸から受ける力は,実は張力ではなく抗力である。この抗力を求めることで解決を見よう。
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滑車に接触している糸の部分を取り出して考える。この部分が受ける力は,糸の他の部分から受ける張力Tと,滑車から受ける抗力Nである。この部分の運動方程式を考えると,質量がゼロなのだから受ける合力はゼロでなければならない。すなわち,糸のこの部分は(変形しながら)加速運動をしているにもかかわらず,質量ゼロの理想化のために,受ける力はつりあっていなければならない。もし,つりあっていなければ無限大の加速度で運動することになってしまう。結果として,2つの張力は滑車から受ける抗力とつりあっていることになるだろう。

着目物体をあらためて滑車に移すとどうなるか? 滑車が糸から受ける力は抗力のみである。しかるに,この抗力は糸が滑車から受ける抗力の反作用だから,上の2つの張力の合力に等しい。

結論:滑車が糸から受ける抗力は,糸の方向への2つの張力に置き換えることができる。

これは,自明として看過できる「ゴマカシ」ではないと感じた。「質量が無視できる張った糸の張力は,その両端を含みどこでも等しい」という「張力の原理」とともに,きちんと説明されてしかるべき簡略化(置き換え)である。糸で吊り下げられたおもりがつりあっているような場合,支点が糸から引かれる力を問題にするときに,張力の代わりにおもりが受ける重力をもってくる簡略化と同類である。
(初稿 2010/10/20)