遠心力か初速稼ぎか?

ロケット発射基地の多くが低緯度にある理由として,遠心力を利用するというものと自転速度で初速を稼ぐという2つの理由がよくあげられるが,この2つは同じことの別な表現である。
実際計算を試みようとすると,同じであることはすぐにわかる。
赤道上で重力に対する遠心力の比は,地球半径R,自転角速度\omegaとして

\displaystyle\frac{mR\omega^2}{mg}=\displaystyle\frac{R\omega^2}{g}

一方,第1宇宙速度に対する自転による地表速度の運動エネルギー比は,

\displaystyle\frac{(R\omega)^2}{gR}=\displaystyle\frac{R\omega^2}{g}

となるが,これらが同じであるのはもちろん偶然ではなく,同じものの異なる表現だからである。

前者は,加速系である地表から見た立場で,実際赤道上で(遠心力の効果を含む)重力が高緯度よりも小さくなっていることを示す。後者は,これを地球中心とともに動く近似的慣性系から見たものということになる。

したがって,遠心力効果と自転による初速稼ぎという2つの理由は,同じことの別表現であり,併記して区別すると重複の過ちを犯すことになる。

ただし,遠心力の効果をとりのぞいても,赤道付近で引力そのものが小さくなっているという事実は,発射基地を低緯度におく独立の理由として認めることができる。地球が赤道方向にわずかにふくらんだ回転楕円体に近い形をしていることからくる効果である。

ちなみに,加速系である地表で東または西に移動すると,重力がわずかに減少・増加する効果がかつて潜航艇に積んだ精密な重力計で測定されており,「エトベッシュ効果」と呼ばれている。(初稿 2009/06/14)
【参考】「http://www.geocities.jp/yokkun831/kansei.pdf