回転の記述と軸性ベクトル(5)

回転の記述と軸性ベクトル(4)において磁場が軸性ベクトルであることをその源から解釈した。続いて電場を含めて電磁場が2階反対称の4元テンソルを構成することを示して,磁場の軸性を深く理解する礎としたい。

(5) 磁場の軸性と電磁場のテンソル

電流を源として磁場が生じる法則(アンペールの法則またはビオ・サバールの法則)から,磁場の軸性について考察してきた。そこで,磁場ベクトルと双対をなす2階反対称テンソルを考え,それを空間成分とする4元テンソルが電磁場テンソルに他ならないことを示す。

磁場はその源である電流の配置によって決まるベクトルポテンシャル(極性ベクトル)によって,

\boldsymbol{B} = \nabla\times\boldsymbol{A}

と書ける。\nabla が極性ベクトル相当であるから,磁場は軸性ベクトルとなる。したがって,その双対をなすテンソル\Omega にならって

^*\boldsymbol{B} = \left(\begin{matrix}\quad 0 \quad -B_z \quad B_y\\ \quad B_z \qquad 0 \quad -B_x\\ -B_y\quad B_x \qquad 0\end{matrix}\right)

と書くことができる。たとえば,電荷 qが磁場から受ける(狭義の)ローレンツ力はこれを用いて,

\boldsymbol{f} = q\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B} = -q\;^*\boldsymbol{B}\boldsymbol{v}

と書ける。

さて,Maxwell方程式によって記述されるように,磁場は電場と切り離しがたく結びついている。これは,その源である4元電流密度

{\rm J} = (\rho c, \boldsymbol{j})

が時空の4元ベクトルを構成することからもわかる。この {\rm J} の空間的配置によって4元ポテンシャル

{\rm A} = (\phi/c , \boldsymbol{A})

が決定する。詳細は拙著による小冊子「特殊相対性理論compact」
https://1drv.ms/b/s!AmvGIcmpu2Gwlk5Flzy4PsSPOOd2
などを参考にしていただきたいが,結論を急げば,微分演算子

\boldsymbol{\partial} = \left(\displaystyle\frac{1}{c}\frac{\partial}{\partial t},\frac{\partial}{\partial x},\frac{\partial}{\partial y},\frac{\partial}{\partial z}\right)

と4元ポテンシャルとの反対称積(4元ベクトル積?)をとることで電磁場テンソルが得られ,反変成分は

{\rm F} = \left(\begin{matrix}0\qquad -\boldsymbol{E}/c\\\boldsymbol{E}/c\qquad ^*\boldsymbol{B}\end{matrix}\right)

という形になる。なお第1行の\boldsymbol{E}は行ベクトル,第1列のそれは列ベクトル,^*\boldsymbol{B} は磁場の反対称テンソルを示す。これと4元速度ベクトルの共変成分

{\rm U} = (\gamma c,-\gamma\boldsymbol{v})

との行列積をとることで,ローレンツ力の4元表現

{\rm f} = q{\rm F}{\rm U} = \gamma q\left(\begin{matrix}\boldsymbol{\beta}\cdot\boldsymbol{E}\\\boldsymbol{E}+\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B}\end{matrix}\right)

を得る。また,これも「特殊相対性理論compact」に譲るが,この電磁場テンソルを用いるとMaxwell方程式がコンパクトな2つのテンソル方程式で記述することができるのである。

※「特殊相対性理論compact」では,磁場の反対称テンソル^*\boldsymbol{B}の定義において上記と符号を逆にしたものを用いている。
https://1drv.ms/b/s!AmvGIcmpu2Gwlk5Flzy4PsSPOOd2

(初稿:2012/01/30)