相対論と電磁場の変換

物理のかぎしっぽ>http://hooktail.maxwell.jp/cgi-bin/yybbs/yybbs.cgi?room=room1&mode=res&no=26267&mode2=preview_pcの質問から。電磁場の変換を場の源からさぐる。

類似の問題を,高校~大学入試レベルでは
電磁場の変換と荷電粒子の運動 - 科学のおもちゃ箱@Hatena
で紹介した。ここではさらに,大学レベルで相対論におけるローレンツ短縮と速度の合成則およびガウスの法則,アンペールの法則とから,実験室系において運動する荷電粒子が受けるローレンツ力が,粒子の静止系ではローレンツ短縮による電荷密度の変換によって電場として記述されることを示す。


一般に任意の方向の電磁場の変換は,
\boldsymbol{E}^\prime = \gamma\left[\boldsymbol{E}+\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B}-\displaystyle\frac{\gamma}{\gamma+1}(\boldsymbol{\beta}\cdot\boldsymbol{E})\boldsymbol{\beta}\right]
\boldsymbol{B}^\prime = \gamma\left[\boldsymbol{B}-\boldsymbol{\beta}\times\boldsymbol{E}/c-\displaystyle\frac{\gamma}{\gamma+1}(\boldsymbol{\beta}\cdot\boldsymbol{B})\boldsymbol{\beta}\right]
となる。ただし,ここで
\boldsymbol{\beta}=\displaystyle\frac{\boldsymbol{v}}{c} \quad , \quad \gamma = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}

以上の帰結は,電磁場のテンソルローレンツ変換から導出されるものであるが,電磁場が変換を受けること自体についての初歩的な説明として,電流と電荷密度という場の源にさかのぼった展開が可能である。以下,「かぎしっぽ」で提示された長ったらしい問題の転載は避け,要点をまとめてみる。

目標は,

「実験室系 {\rm S}_1 において,直線電流 I がつくる磁場 \boldsymbol{B} (磁束密度)の下で,電流に平行に速度 \boldsymbol{v} で運動する電荷 q が受けるローレンツ力は,q\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B} で表されるが,この力は粒子とともに動く {\rm S}_2 系から観測すると,ローレンツ短縮によって導線に現れる電荷を源とする電場に他ならないことを,ローレンツ短縮と速度合成則,ガウスの法則,アンペールの法則から導出する」

ことである。
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実験室系 {\rm S}_1 において,導線の外の電場は無視できるものとすると,導線内の正電荷(金属イオン)の線密度 \lambda_1 に対して,負電荷自由電子)の線密度は,\bar{\lambda}_1 = - \lambda_1 である。

さて,粒子とともに動く系 {\rm S}_2 に移ると,対称性により {\rm S}_1 系において静止していた正電荷は速度 -\boldsymbol{v} で運動することになり,その電荷密度は,ローレンツ短縮のために

\lambda_2 = \displaystyle\frac{\lambda_1}{\sqrt{1-v^2/c^2}}

に増加する。

一方,{\rm S}_2 系における導線内の負電荷の密度を知るために,電子の平均速度がゼロである「電子静止系」{\rm S}_3 に一旦移って,観測される負電荷の線密度を \bar{\lambda}_3 とする。{\rm S}_2 にもどって,導線内の電子の平均速度を -\boldsymbol{w} であるとすれば,

\bar{\lambda}_2 = \displaystyle\frac{\bar{\lambda}_3}{\sqrt{1-w^2/c^2}}

となる。一方,{\rm S}_1 において電子の平均速度を -\boldsymbol{u} とすると,

\bar{\lambda}_1 = \displaystyle\frac{\bar{\lambda}_3}{\sqrt{1-u^2/c^2}}

である。さて,以上の議論において速度の合成側から,

w = \displaystyle\frac{u + v}{1+uv/c^2}

なる関係が成立する。そこで,これを上の \bar{\lambda}_2 に適用し,{\rm S}_2 において出現する正味の線電荷密度 \delta\lambda を計算する。

まず準備として,

1-\displaystyle\frac{w^2}{c^2} = 1 - \frac{(v+u)^2}{c^2(1+uv/c^2)^2} = \frac{(1-u^2/c^2)(1-v^2/c^2)}{(1+uv/c^2)^2}

すると,

\delta\lambda = \lambda_2 + \bar\lambda_2 = \displaystyle\frac{\lambda_1}{\sqrt{1-v^2/c^2}} + \frac{\bar{\lambda_3}}{\sqrt{1-w^2/c^2}}
     = \displaystyle\frac{\lambda_1}{\sqrt{1-v^2/c^2}} + \frac{-(1+uv/c^2)\lambda_1}{\sqrt{1-v^2/c^2}} = -\frac{uv\lambda_1}{c^2\sqrt{1-v^2/c^2}}

となる。この線電荷密度によって導線から r の距離に生じる電場は,

E = \displaystyle\frac{\delta\lambda}{2\pi\varepsilon_0 r} = -\frac{uv\lambda_1}{2\pi\varepsilon_0 rc^2\sqrt{1-v^2/c^2}}

ここで,I = u\lambda_1\;,\;\varepsilon_0\mu_0 = 1/c^2 であるから,

     E = -v\times\displaystyle\frac{\mu_0 I}{2\pi r}\times\frac{1}{\sqrt{1-v^2/c^2}} = -\frac{vB}{\sqrt{1-v^2/c^2}}

図のように座標軸をとると,問題の設定は \boldsymbol{v}=(v,0,0)\;,\;\boldsymbol{B}=(0,0,B) であるから,

     (\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B})_y = -vB

であり,また上の E はあくまで {\rm S}_2 における電場であるから,{\rm S}_1 の磁場 B からローレンツ変換されるときに,因子 1/\sqrt{1-v^2/c^2} がつくわけだ。もちろん,{\rm S}_2 系においても電流はあるから磁場も存在するが,初期状態に関する限りは粒子は動いていないから,粒子の運動(動き始め)に寄与することはない。

(初稿:2010/02/04)