金星光度変化の初歩的モデル

金星の光度変化に対して、単純化したモデルを考察してみた。


内惑星である金星の光度は、太陽・地球との位置関係によって大きく変化する。それが、満ち欠けによる輝面比(地球側を向いた射影全面積に対する、太陽光を受けて輝いている部分の射影面積の比)と地球からの距離とを主な2つの変数とする関数であることは推測に難くない。金星が外合から内合に向かうとき、輝面比は小さくなって光度を減少させ、距離は小さくなって光度を増加させる方向にはたらく。したがって、金星はその途中で「最大光度」を迎えるのである。

一方、輝面比と距離はいずれもが位置関係によって決まるから、位置関係が定まれば地球から見た金星の光度は当然ひとつに定まる。太陽と地球を固定した座標系で見るのがわかりやすいだろう。この系で金星は、地球との会合周期 584日をもって太陽のまわりを1回転することになる。以下、次のような単純化のもとで、金星の光度変化のモデルをつくって検証してみたい。

① 金星・地球ともに、明るさ一定の太陽を中心とする円軌道を等速円運動し、それらの公転軌道面は同一であるとする。
② 金星は球とし、その輝面(地球方向への射影)は明るさが均一であり、したがってその光度は輝面に比例するものとする。この仮定は、金星が厚い雲に覆われていることによってその正当性が保証されるものであると思われる。たとえば、満月と半月とは十倍ほどもの光度の違いがある。
③ 金星の輝面(地球方向への射影)を光源として、距離の2乗に反比例する減衰をもって地球に到達する光の総和が光度を決定するものとする。

位置関係を決定する変数として、内合位置からはかった金星位置の中心角 \theta をとる。
rR は金星および地球の軌道半径、また s は金星-地球間距離であり、余弦定理により

s^2 = r^2 + R^2 - 2rR\cos\theta

の関係にある。

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一方、輝面比と \theta との関係を導く。金星の輝面形状は半円と楕円との差(または和)である。輝面半径 a に対して、位置 \theta における輝面をつくる楕円の短半径は、下図の角度 \phi を用いて

b = a\sin\phi

となる。

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ここに、再び余弦定理により、角度 \phi

\cos\left(\phi + \displaystyle\frac{\pi}{2}\right) = \displaystyle\frac{r^2+s^2-R^2}{2rs}

によって s を通じて \theta に対して一意に決定される。

以上により、光度 I

I \propto \displaystyle\frac{\pi a^2 - \pi ab}{2s^2} \propto \frac{1 - \sin\phi}{s^2}

と推測される。以上から計算した会合周期内の光度変化は次の通りである。

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なお、計算結果は光度の相対変化を示したに過ぎず、縦軸の数値は無意味である。また、光度を等級にするには対数をとらねばならない。最大光度を一致させて等級への変換をしたものと、実際の内合前後3か月間の等級変化を示したグラフ(*)を比較してみた。
(*) 引用: http://homepage2.nifty.com/turupura/new/2012/new1204_08.html

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モデルによる内合と最大光度の間の時間は、約36日。実際のそれは約35日であり、ほどよい一致が見られた。内合時、実際の光度がさほど落ちないのは、金星と地球との軌道面が一致しないことによる。また、上のグラフには現れていないが、外合時の明るさは実際より暗くなる結果を得た。これは、主として上記の単純化③の影響が大きいのではないだろうか。実際、金星を望遠鏡で観察すると、輝面の明るさは一様ではない。外合時の満ちた輝面は、明るい部分の比率がより高いと思われる。

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 金星(2013.12.24撮影…最大光度17日後、内合18日前である)

(初稿:2014/01/03)