SF-01 宇宙ステーション

SFぶつり ―重力編― SF-01

(1) 惑星間旅行の発着ベースとして

 宇宙ステーションは,通常巨大な「人工衛星」である。その最大の役割は,太陽系内旅行において大型の宇宙船を発着させるのに,いちいち地球上のベースを使うことでその都度莫大なエネルギーを消費する無駄を省くことにある。衛星軌道上ではすでに第1宇宙速度に達しているわけだから,発進のためにはさらに第2宇宙速度まで加速するだけでよい。

 地球近傍の衛星軌道に乗るために必要な速さ v_1 は,円運動の方程式

 \displaystyle\frac{{v_1}^2}{R} = G \frac{Mm}{R^2} = mg

より,

v_1 = \sqrt{gR} ≒ 8\textrm{km/s} (第1宇宙速度

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一方,地球引力圏からの脱出に必要な速さ v_2 は,エネルギー保存により

\displaystyle\frac{1}{2} m{v_2}^2 - G \frac{Mm}{R} = 0

だから

v_2 = \sqrt{2gR} ≒ 11 \textrm{km/s} (第2宇宙速度

となる。

(2) 宇宙ステーションにおける人工重力

 宇宙ステーションのオーソドックスな形状は,車輪形である。やや古典的ではあるが,この形状には誰しもうなずける合理性がある。軸のまわりに自転させることで遠心力を生じさせ,「人工重力」とするのである。
 万有引力の命ずるままに軌道上を公転するステーション内は,そのままでは無重力である。無重力状態で長期間生活すると,足腰は萎え骨にさえ悪影響が出て,地上に帰った際にかなりのリハビリをしないと重力下の生活に適応できなくなってしまうのである。

 半径 r のステーションが軸まわりに角速度\omega で自転しているとき,質量m の人が受ける「重力」は,mr\omega^2 である。これを地上における重力と等しくするためには,

mr\omega^2 = mg  \therefore \omega = \sqrt{\displaystyle\frac{g}{r}}

\therefore T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{r}{g}}

 r=50 m の場合 g=10 m/s^2 として,T=14 s の周期で自転させればよい。

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(3) ステーションへの発着

 ステーションが自転しているということになると,シャトルや惑星間航行船の発着には多少の工夫が必要になる。前述の例の場合,ステーションの周縁部の速さは80 km/h にもなるから,おいそれと近づけない。
 シップはまず回転していない中心軸にドッキングし,ステーションに乗り移ったわれわれは,徐々に回転速度を上げてついにはステーションの回転に追いつくようなカプセルを経由して,その後半径方向にのびたパイプの中を,ステーション周縁部に向かうエレベータ内でしだいに増加していく「重力」を感じながら,「降下」していくことになるだろう。シップの発進時は,以上の逆のプロセスを経なければならない。

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 なお,中継カプセルの回転 \leftrightarrow 停止は,軸の静止やステーション全体の回転に影響を与えないように,ガス噴射などで独立に行わなければならない。ステーション全体の角運動量は保存されるから,カプセルの回転 \leftrightarrow 停止は,排出ガスに逆向きの角運動量を与えることによってしか実行できないのである。
   ※ 角運動量=回転半径×運動量で定義される量

 なかなか技術的には困難な課題がたくさんあるが,人工重力のもとでステーションの居住環境は快適なものになるだろう。ただし,限られた数の窓の外は,長いことのぞかない方がいい。視野の多くを占める地球も,星座を形づくる星々もみなぐるぐる回っていて,目がまわってしまうだろうから。もっと巨大なステーションが建造されて,回転の角速度を小さくできるまでがまん…である。

(初稿:2007/06/11)