SFぶつり―重力編― SF-04
およそありそうにない話だが,中心からある半径以内がからっぽの惑星があったらどうだろう。あまりに突飛ではあるが,例えば生命を持続させる環境の危機を前に,惑星の知的生命体が惑星中心部の物質を材料にして巨大な宇宙船を建造し,他の惑星に移住するために空洞になった惑星を放棄して旅立った…というのはどうだろう。SF的ノアの箱舟というわけだ。
(1) 異常に低い平均密度
外見に比較して平均密度が異常に小さいこの惑星。その発見は,惑星のまわりを公転する衛星の周期を測定することによってなされる。
質量 の衛星が半径 の円軌道を周期 で公転しているとすると,運動方程式は
これによって惑星の質量がわかり,惑星の視直径から計算される体積で割ることによって,その平均密度の異常な低さがわかる。
異常な軽さの秘密を探るために惑星探査隊が送り込まれる。到着した隊員たちは,まずその大きさに比べて表面重力が小さいことを身をもって体験する。もともと大きな惑星ではないので重力は小さいが,予想をこえて小さいのである。そこで地下構造を調査すべくボーリングを始める。掘り進めながらあわせて深部の重力を測定する。惑星内部が一様であるとすれば,内部重力は中心からの距離に比例するから,深くなるほど重力は小さくなっていく。しかし,測定データはあまりにはやい重力の減少を示すのである。プロットされる曲線は,中心に達するはるか手前で重力がゼロになることを示すのだ! もしそのまま掘り進めれば,重力がゼロになると同時にボーリングは空洞に達するだろう。
探査チームの一部は,惑星表面の探査に出かけるが,文明の名残を多数みつけながら探査範囲を拡大していくうちに,やがてついに空洞と連絡する縦坑を発見するのである。エレベータで降下する隊員たちは,ボーリングで測定された重力のはやすぎる減少を身をもって体験し,長い降下の後に広大な無重力の空洞に達する。
(2) 球殻内部の無重力
さて,中心部の球形の空洞内が無重力であることを示すには,薄い球殻がその内部につくる万有引力の場がゼロであることをいえば十分である。重ね合わせの原理によって,惑星が空洞内につくる重力場は,積み重ねた薄い球殻がつくる場の総和になるからだ。ゼロはいくつ足してもゼロである。
球殻の質量面密度(単位面積あたりの質量)を とする。内部の点Pにある質量 が受ける重力を考える。
Pを通る直線をPを軸として錐体面を描くようにまわすとき,切り取られる球面上の微小面積を ,,Pから , までの距離を , とすると,
が成り立つ。 , と球面のなす角 が,両者等しくなるところがミソである。
, の質量が に及ぼす引力 , は互いに逆向きで,
すなわち
, と同様の微小面積の組み合わせによって球面をおおいつくすことができるから,それらの万有引力の合力はゼロである! 以上で球殻内部の重力がゼロになることが証明された。その本質は,万有引力が距離の2乗に反比例するいわゆる逆2乗法則に従うことによる。