SFぶつり―重力編― SF-03
(1) 等価原理について
私たちの宇宙では,その生成,運動,発展において重力が中心的な役割を演じている。私たち地球上に存在する生命もみな,重力に支配され,そして重力に依拠して生命活動を営んでいる。それどころか,もし重力がなければ地球は水や大気を保持し得ないし,惑星や恒星,銀河,さらにはこの宇宙そのものすら存在し得ないことを考えると,あえていうならば重力は宇宙「そのもの」である。
宇宙全体にあまねくいきわたって支配している重力をコントロールできるかとなると,SFとしてはおもしろいテーマだが,少なくとも当面(?)ムリといわざるを得ない。しかし,バーチャルな重力場をつくり出すことは,ある程度可能である。例えば宇宙ステーションの自転による人工重力は,まさにそれにあたる。
「私たちは,重力と,加速系における慣性力とを局所的には判別し得ない」
これが擬似重力の原理的根拠=「等価原理」である。
(2) 擬似重力場をつくる
真の重力場との比較において,バーチャルな重力場の単純な例を見ておこう。
(i) 惑星上に静止した物体が受ける真の重力。「静止」は等速度運動におきかえてもよい。ただし,大きく移動すると重力は変わる。
(ii) 等加速度直線運動をしている実験室内に「静止」した物体が受ける擬似重力。ただし,まわりは無重力の空間。
(iii) ワイヤーにつながれ,円運動をしている実験室内に「静止」した物体が受ける擬似重力。まわりは同じく無重力の空間。
(i) 真の重力 (ii) 擬似重力その1 (iii) 擬似重力その2
(ii),(iii)ではいずれも運動の加速度に対して逆向きの慣性力がバーチャルな重力となっている。(iii)の場合,回転半径によって多少の差が出る。
(3) 重力と擬似重力の合成
任意の加速運動がもし可能であるならば,局所的な任意の重力場の空間がつくり出せる。また,真の重力場において擬似重力との合成によって,加速系内の「重力場」をコントロールすることができる。
右向きに加速度をもつバスの中では,合成重力場はななめ後方に傾く。
振動や窓外の景色などの情報がなければ,車内の人は左下の図のように,バスの前端が持ち上げられたのとほぼ同等の状態におかれることになる。ただし,合成によって「重力」は少し大きくなっている。
次に回転円板上の擬似重力について考えてみよう。
回転軸から の距離において擬似重力は,
となる。
ここで は円板の回転の角速度, は合成重力の鉛直方向からの傾角である。すなわち円板上の水平面が だけ傾き,なおかつ重力が増したような状態におかれることになる。外から見ている分には大したことはないようにも思えるが,とんでもないおそろしい立場になっているのである。
ここで,回転円板上の擬似重力場を考慮したとき,水平面であるはずの円板がどうなっているように感じるか,その等価面の形状を計算してみよう。
求める等価面の形状を とすると,
すなわち合成場 を鉛直下方にとれば,放物面になる。
また,
の比で重力が とともに増大するように感じることになる。
(4) 加速系のシミュレーション
遊園地などのアトラクションのひとつに,乗り込んだコンテナがその場で動かされるだけで,座席にすわった私たちがあたかも実際に猛スピードで走るコースターやジェット機に乗っているかのようなスリルを味わうことのできるものがある。映し出される画像の視覚的効果とコンテナの傾きによって,擬似的な加速空間をつくり出しているのである。
これは,重力を逆に擬似的な慣性力にみたてていることがわかる。コンテナの加速度自体は大きくできないから,コンテナを傾けることによって,コンテナ内の擬似的な「重力+慣性力」の方向を変えているわけだ。
実際乗ってみると,なかなかのリアリティだが,擬似加速度は を大きくこえることができないという限界がある。また,合成場を より小さくすることもできない。こうした限界を映像による視覚的な効果でうまく補っているといえるだろう。
(初稿:2007/06/11)