東へ走ると軽くなる?…エトベッシュ効果の解釈について

地球上の物体が受ける慣性力に関する覚え書き - 科学のおもちゃ箱@Hatena
こちらに19年も前に書いた地表系の慣性力に関する覚え書きを載せたが、そのきっかけになったのは「エトベッシュ効果」に対する次の表式である。

a_r = 2\Omega u \cos\phi + \displaystyle\frac{u^2+v^2}{R}
ただし、
\Omega :地球自転の角速度
(u, v) :運動体の地表系における速度(東方向成分, 北方向成分)
\phi:観測点の緯度(北緯)
R:地球半径
で、a_r は地球半径方向すなわち鉛直方向の慣性力加速度成分を意味する。

見た目で明らかなように、第1項はコリオリ力、第2項は遠心力への加算と解釈できそうだ。
一方、エトベッシュ効果は自転速度に運動体の速度が加わることによる単純な遠心力差であると解されることは、上に紹介した論述の通りである。そこで、
「エトベッシュ効果はいったい『コリオリ力』なのか『遠心力』なのか」
という疑問を生じたのである。


そこで上の論述にある考察をもとに、地表の運動体が受ける慣性力について考え直してみた。

自転による東方向への地面の速度は、R\cos\phi\cdot\Omega である。それに対して実験室の東方向への速度成分 u が加算される。そしてさらに、南北方向の速度成分 v を考慮すれば、実験室の速度2乗は

V^2 = (R\cos\phi\cdot\Omega + u)^2 + v^2

すると、遠心力加速度は

 \displaystyle\frac{V^2}{R} = R\cos^2\phi\cdot\Omega^2 + 2\Omega u \cos\phi + \frac{u^2+v^2}{R}

となる。右辺第1項は地球自転による遠心力の鉛直成分だから、地表系においては重力に含まれる。したがって、第2・3項が上記の a_r になるわけだ。遠心力の加算分を計算しただけなのに、コリオリ力らしきもの(第2項)がちゃんと出てきたではないか!

この点についてよく考えてみたところ、自分なりの解釈ができあがった。そもそも、上の考察は地表系による考察ではない。運動体とともに地表を動く立場で観測される遠心力を評価しただけである。では、地表系にもどって評価しなおしたらどうなるか?

\ddot{z} = \displaystyle\frac{Z}{m}-g+2\omega\cos\lambda \cdot \dot{y}

これが、
地球上の物体が受ける慣性力に関する覚え書き - 科学のおもちゃ箱@Hatena
にも示した地表系における鉛直方向の運動方程式である。第1項は外力、第2項は重力、そして第3項がコリオリ力の加速度である。\dot{y} は東向き速度成分を表す。自転による遠心力の加速度は、重力加速度に含まれている。また、地表系における運動方程式だから、運動体とともに動く立場での遠心力は登場しないのは当然である。

結論として言えるのは、地表系における鉛直方向の加速度にコリオリ力による加速度成分が含まれるが、運動体とともに動く立場ではそれは遠心力として解釈されることになる、ということである。

コリオリ力か遠心力か」
という慣性力の判定については、これまでにも何度か混乱した記憶がある。その意味を今さらながら理解したように思う。