質量比3:1の衝突

実験によく用いられる衝突球(ニュートンのゆりかご)。質量 m の鋼球が静止した質量 3m の鋼球に弾性衝突すると,衝突後の両者の速度は逆向きで大きさが等しくなり、2回の衝突後もとにもどる。はね返り係数 e\lt 1 の衝突ではどうなるのか?


質量 m,速度 v_0 の鋼球が静止した質量 M=\alpha m の鋼球にはね返り係数 e で正面衝突した場合,衝突後の両者の速度が逆向きで大きさ v が等しくなる条件は,運動量保存およびはね返り係数の定義から

v_0=(\alpha-1)v
ev_0=2v

\therefore \quad \alpha=1+2/e

となる。そこで,はね返り係数が1より少し小さいことを考慮すると,衝突後対称に分かれるためには質量比 \alpha は3より少し大きくなければならない。

質量比およそ3:1の鋼球と磁製球で実際に作った衝突球では,\alpha が3より少し大きくなってしまった。でも,意外にもちょうどよく対称な別れと2度の衝突を経てはじめにもどる繰り返しがほぼ実現した。これは,はね返り係数が1より少し小さいことを \alpha が3より少し大きいことがうまく補填してくれたと思った。しかし・・・である。

2度目の衝突を考える。両者が速さ v で対称に近づいて衝突し,質量が大きな方が静止する条件は,

(\alpha-1)v=v_1
2ev=v_1

\therefore \quad \alpha=1+2e

となってしまい,今度は \alpha が3より少し小さくなければならなくなる。

結局,目的の衝突繰り返しの持続を実現するには,質量比はちょうど3にするのが妥当というわけだ。はね返り係数が1より小さいために起こる乱れは,甘んじて受け容れるしかない。実際の衝突球が,左右の別れと質量が大きな方の静止とを繰り返す運動を持続させることができるのは,鋼球と磁製球のはね返り係数がかなり1に近いこと,そして左右の別れが非対称であっても最下点にもどってくる時間が左右でほとんど等しい(単振子の周期が触れ幅の小さな変化にはあまり依存しない)ことによっている。
(初稿:2009/06/17)