メタセンターと浮体の安定

浮体の安定…といえば、浮心が重心より上にあれば安定…ぐらいにしか理解していなかったが、Q&Aサイトでみつけた質問に興味を感じたのであらためて勉強させてもらった。

【問題】
断面が底辺 B、高さ H の長方形で、奥行き長さが L の一様な直方体が水に浮いている。その密度は、水の密度 \rho_0 に対して
\rho = \gamma \rho_0
ただし、\gamma = 0.9
である。ただし、LB,H に対して十分長いものとする。
(1) B=H のとき安定であることを確認せよ。
(2) 安定性が保たれる B/H の最小値を求めよ。

吃水をもって浮いている浮体の安定はそう単純ではない。傾きに対して浮心が動くからである。したがって、重心と浮心の上下関係だけで安定性を結論付けることはできない。たとえば、立方体の氷の浮心は重心より明らかに下にあるはずだが、ひとつの面が水面と平行に出た状態で安定を保つことは経験から明らかである。カギとなるのは、動いた浮心を作用点とする浮力が傾きを戻すような復元力のモーメントを持つかどうかである。立方体の氷が上にのべたような安定性をもつことは少し考えればわかる。

この安定性の判定に用いられる概念がメタセンター(傾心)である。

つり合い位置・姿勢にあるとき、重心Gと浮心C₀を結ぶ直線を z 軸として下向きにとり、水面との交点を原点Oとして x-y 平面を水面に一致させる。これらの座標軸は浮体に固定したものとする。

浮体が傾いたとき、移動した浮心Cを通る鉛直線すなわち浮力の作用線と z 軸との交点をメタセンター(傾心)という。z 軸上にならんだ重心GとメタセンターMの上下関係が浮体の安定を決める。MがGの上にあれば安定になることは明らかである。図のようにMがGの上にあるとき MG=h とすると、h \gt 0 が安定の条件となる。

浮体がつり合い姿勢から微小な角度 \theta だけ傾いたとき、浮心は x 方向に
C₀C=(h+a)\theta
だけ移動する。ただし、
GC=a = \displaystyle\frac{(1-\gamma)H}{2}
である。

一方浮心は、浮体が押しのけている水の重心(浮体の沈んでいる部分の体積の中心)だから、傾いたときの浮心のずれは
C₀C =\displaystyle\frac{\displaystyle\int _{-B/2}^{B/2} L x\theta dx\cdot x}{V_E} = \frac{I_y \theta}{V_E}
ただし、
V_E = \gamma BHL
は沈んでいる部分の体積である。また、
I_y = \displaystyle\int x^2 dA,\qquad dA=Ldx
y 軸まわりの断面二次モーメントと呼ばれる量である。

上の C₀C に対する2つの表現を比較して、

h = \displaystyle\frac{I_y}{V_E} - a

を得る。これがメタセンターの位置を与え、安定条件 h \gt 0 を得るための汎用性をもつ基本公式となる。

【参考】
https://ss1.xrea.com/penguinitis.g1.xrea.com/study/note/floating_body.pdf

(1)
B=H のとき、
I_y = \displaystyle\frac{LB^3}{12}
V_E = \gamma BHL
より、
h = \left(\displaystyle\frac{1}{12\gamma} - \frac{1-\gamma}{2}\right)H

\gamma=0.9 を適用すると、h \gt 0 を得る。

(2)
安定限界において、h=0 だから
B^2 - 6\gamma(1-\gamma)H^2=0
したがって、
\displaystyle\frac{B}{H} = \sqrt{6\gamma(1-\gamma)}

\gamma=0.9 のとき0.735 となり、縦横比4:3ぐらいが安定の限界となる。Algodooのあまり信頼できない「液体」でもほどよく再現できる