運動の法則は力の定義か?

Yahoo!知恵袋より。運動の第2法則を「力の定義」であるとする解釈について。
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講義で「運動方程式は力の定義ととらえることもできる」と教わり,一方「運動方程式は力の定義式ではない」と断言した参考書を見て,どちらも信用できるものだけに判断がつかないという質問者。私の回答を転載する。
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ニュートンの運動の法則は,その全体において「ゆるやかに」閉じていると考えられます。つまり,質量概念や速度・加速度の概念を土台として,他に原理や法則を前提としなくても力と運動の関係をすべて説明しているということです。

ところが,質量概念および速度や加速度の概念を既知としても,運動の法則は力概念の定義をあからさまには含んでいません。そこで,論理的には運動方程式(第2法則)が力の定義であるとする「現代的」解釈も成り立つのです。正確には,「運動における力の効果」の定義というべきかもしれません。力学の体系において他に「一般的な力」の定義はどこにも見当たらないのです。

しかし,運動方程式(第2法則)は明らかに「一般的な」力と運動の関係を記述した法則です。そして,たとえば万有引力の法則のように,他に力の法則を適用することで,ようやく一般的・抽象的な力が,個別的・具体的な現実の力に置き換えられます。これらの力の法則こそが個別具体的な力の定義であるともいえます。

第2法則は,論理的には「定義であり,かつ法則である」という自己矛盾を含んでいるかに見えます。論理的に定義と法則が両立できないことは明らかです。こうした記述の方法は数学のように論理において厳密を期する分野では許しがたい矛盾ですが,物理学のように現象を記述する分野ではめずらしくありません。

力を既知として力と運動の関係を記述しながら,暗に「一般的な」力を定義している。この論理的には循環論法とも自己矛盾とも思えるような記述が,むしろ法則の記述を動的で生きたものにしているような気もします。そして,その矛盾に対して誰も不備や不便を感じることはないのです。

たとえば,第3法則に運動の法則を適用すると運動量保存の法則が導出されますが,これをもって第3法則は「質量の定義」であるとする論理的な解釈も成立します。ここにも同じような定義と法則との「循環的」な記述が見られます。

結果として,私は「どちらも正しい」と考えます。しかし,第2法則を力の定義であるとする解釈は,少なくとも高校レベルでは混乱をもたらすだけであまり「教育的」ではないとも思っています。

(初稿:2012/10/16)