2つの遠心力について

「2つの遠心力」の問題はいずれ整理したいと考えてはいたが、ある問題場面で散々悩んだ末に、解決のカギがそこにあることに気づいた。


回転系から見た等速直線運動 - 科学のおもちゃ箱@Hatena

この問題場面で、回転系における力(慣性力としてのコリオリ力、遠心力)の関係はどうなっているか、という考察を要請するような質問を「知恵袋」でみつけ、チャレンジしたがどうにもうまくいかない。



慣性系に対して一定の角速度 \boldsymbol{\omega} で回転する回転系を考える。回転系における質量 m の質点の運動方程式は外力がない場合

m \ddot{\boldsymbol{r}} = - 2m\boldsymbol{\omega}\times\dot{\boldsymbol{r}} - m\boldsymbol{\omega}\times(\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r})

となる。右辺第1項はコリオリ力、第2項は遠心力である。

回転系における力学的エネルギー保存 - 科学のおもちゃ箱@Hatena

回転系に対して固定した極座標r - \phi を設定し、単位ベクトルを \boldsymbol{e}_r,\; \boldsymbol{e}_\phi とすると、

位置ベクトル
\boldsymbol{r} = r \boldsymbol{e}_r
速度ベクトル
\dot{\boldsymbol{r}} = \dot{r} \boldsymbol{e}_r + r\dot{\phi}\boldsymbol{e}_\phi
加速度ベクトル
\ddot{\boldsymbol{r}} = (\ddot{r} - r{\dot{\phi}}^2)\boldsymbol{e}_r + (2\dot{r}\dot{\phi}+r\ddot{\phi})\boldsymbol{e}_\phi

運動方程式に適用すると(簡略化のために質量をとる)

\ddot{\boldsymbol{r}} = - 2\boldsymbol{\omega}\times(\dot{r} \boldsymbol{e}_r + r\dot{\phi}\boldsymbol{e}_\phi) - \boldsymbol{\omega}\times(\boldsymbol{\omega}\times r\boldsymbol{e}_r)\\
= (2r\omega \dot{\phi} + r\omega^2)\boldsymbol{e}_r - 2\dot{r}\omega\boldsymbol{e}_\phi

を得る。これが回転系で記述した運動方程式の成分表示である。コリオリ力は、r 方向と \phi 方向に分解されている。

さて、この運動方程式を慣性系において等速直線運動する質点に適用するのだが、原点を通過するような条件で考えると明らかに

\dot{\phi} = - \omega

であるから、r 方向成分は

2r\omega\dot{\phi} + r\omega^2 = -r\omega^2

となる。

ここまでの計算を何度繰り返したかわからない。なぜかといえば、r 方向には等速度だからコリオリ力の分力と遠心力はつりあって合力0ではないか、と考えたからである。しかし、何度繰り返しても計算ミスはなさそうだ。どこに勘違いがあるのか?

これは、「2つの遠心力」を混同して、回転系における遠心力はもう考慮済みだから合力0、と思い込んでしまったのである。「2つの遠心力」とは、

① 回転系にともなって現れる遠心力
② 座標系に対して質点とともに曲線運動をすることによって現れる遠心力

である。①はすでに運動方程式に組み込まれたので、r 方向の合力は0であると勘違いしてしまった。②は①とは別の遠心力であり、その遠心力を考慮して初めて合力0となるべきだ。上の運動方程式は回転系のものであって、ともに動く立場のものではないから、当然 r 方向には曲線運動のための向心力  -mr\omega^2 があって当たり前なのであった。

高校レベルで学ぶ初歩的な「遠心力」は②である。大学レベルになると①が登場する。しかし、①と②を区別すべきことはあまり意識されていないことが多いように思われる。このことをうっかり見逃した結果、誤っていない計算を何度も繰り返すような袋小路に入ってしまった、というわけだ。

あらためて、慣性系において自由運動(等速直線運動)する質点が回転系において受ける力の関係を整理しておく。

r 方向には回転系にともなう外向き遠心力と、\phi 方向への速度成分に比例する内向きのコリオリ力の分力が作用し、それが曲線運動の向心力を構成する。この合力はともに動く立場で別に現れる遠心力①とつりあうことになる。そこで、r 方向には等速運動となる。一方、\phi 方向には r 方向の一定の速度成分に比例するコリオリ力の分力が作用し、等加速度運動となる。結果として、回転系における質点の運動は、原点通過後一定の速さで離れていき、角速度が一定で原点周りを回転するものとなり、その軌道は蚊取り線香のように間隔が一定の渦巻きとなるのである。