偏心軸で斜面をすべる円板

鉛直に立てた2枚の三角板にはさまれた円板が,偏心軸で三角板の斜辺にぶらさがってすべる運動について。T大学工学部の院試の過去問だが,Algodooシミュレーションによってその「不備」が浮かび上がった。
Yahoo!知恵袋>http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1373599348 より。

【問題】抜粋

 
図のように,2枚の合同な三角平板が重ねて鉛直に固定され,そのすきまにはさまれた質量 m,半径 a の円板が,中心から h だけ離れた太さと質量が無視できる垂直軸によって,傾角 \theta の三角板の斜辺にぶらさがって摩擦なくすべりおりる。

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軸とともに運動する座標系 (x^\prime,y^\prime) において円板が静止するような特別な条件ですべっている場合,
(1) 軸が斜面から受ける抗力の大きさを R として,慣性系 (x,y) において円板の重心Oの x 方向,y 方向の運動方程式を立てよ。
(2) 軸が受ける抗力の大きさ R を求めよ。
次に軸まわりの円板の微小振動を考える。
(3) 振動の周期 T を求めよ。ただし,軸の加速度の変化は無視し,軸まわりの円板の慣性モーメントを I とせよ。

【解答】

(1)
m\ddot{x} = -R\sin\theta
m\ddot{y} = R\cos\theta - mg

(2)
束縛条件
\displaystyle\frac{\ddot{y}}{\ddot{x}} = \tan\theta
に(1)の結果を用いて,
\displaystyle\frac{R\cos\theta - mg}{-R\sin\theta} = \tan\theta
\therefore R = mg\cos\theta
座標系 (x^\prime,y^\prime) から見ると,慣性力を含む力のつり合いおよび力のモーメントのつり合いにより,円板の加速度は g\sin\theta であり,AOは斜面に垂直であることがわかる。
(3)
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座標系 (x^\prime,y^\prime) における慣性力を含む「みかけの重力加速度」は,斜面に垂直に g\cos\theta である。
円板の重心と軸を結ぶAOの,座標系 (x^\prime,y^\prime) における上記の「静止位置」からの微小角変位を \phi とすると,軸まわりの回転の運動方程式は,
I\ddot{\phi} = -mg\cos\theta\times h \phi
となり,微小振動の周期
T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{I}{mgh\cos\theta}}
を得る。
I = \displaystyle\frac{1}{2}ma^2 + mh^2
を用いると,
T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{a^2 + 2h^2}{2gh\cos\theta}}
となる。
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と,ここまで解いてAlogodooでシミュレートしてみた。すると,どうしても周期が合わない。たいていシミュレーション結果が合わない場合は,計算ミスであることが多いが,精査してもミスはみつからない。そのうち,シミュレーションによる周期は
T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{I_0}{mgh\cos\theta}}
であることに気づいた。ここに,
I_0 = \displaystyle\frac{1}{2}ma^2
は,円板の重心まわりの慣性モーメントである。
そして,問題の展開をよくよく追跡してみると,このくいちがいは問題そのものの「不備」によって生じたものであることがわかった。実際は,軸の加速度は変化しなければならず,加速度が変化しないのは重心Oの(斜面方向成分の)方である。したがって,回転の運動方程式は重心まわりに立てなければならず,用いるべき慣性モーメントは I_0 となるのである。
軸の加速度を変化しないものとする「近似」をとるのであれば,軸の質量は無視するのではなく,円板より十分大きいとすべきであった。そうすれば,
斜面をすべる実験室内の振子 - 科学のおもちゃ箱@Hatena
でも論じたように,斜面を等加速度ですべる実験室内に「固定」された軸まわりの微小振動を考えることができ,その場合には軸まわりの慣性モーメント I が使えることになる。Algodooによるシミュレーションでも,軸の質量を十分大きくとってやると,周期は(3)の結果に一致を見たのである。
軸の質量を無視したことと,(3)において軸の加速度の変化を無視できるとしたことは,互いに矛盾する「簡略化」であり,無茶な題意に踏み込んでいると言わざるを得ない。
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あらためて運動方程式を立ててみる。斜面下方を x 方向,斜面に垂直上方を y 方向とする。重心の運動方程式は,
m\ddot{x} = mg\sin\theta
m\ddot{y} = R - mg\cos\theta
重心まわりの回転の運動方程式は,角変位 \phi を微小であるとして
I_0\ddot{\phi} = -Rh\phi
ここで
R = mg\cos\theta
で一定であるとするのは,y 方向の加速度が小さいことから許される近似であろう。すると,微小振動の周期は
T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{I_0}{mgh\cos\theta}}
となる。密度一様な円板では,
T = \displaystyle\frac{2\pi a}{\sqrt{2gh\cos\theta}}
を得る。Algodooシーンの設定は,
a = 10[m], h = 6[m], \theta = \pi/3
で,理論値は8.2sec. シミュレーション値は8.1sec. であった。また,軸の質量を円板に比べて十分大きくすると,理論値は10.7sec. シミュレーション値は10.9sec.であった。

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(初稿:2011/10/19)