作用反作用のかんちがい

力学初歩でよくあるかんちがい。おとなとこどもがおしくらまんじゅう。おとながこどもを押す力と,こどもがおとなを押す力はどちらが強いか?

「おとながこどもを押す力が強いので,おしくらまんじゅうはおとなの勝ち!」
このかんちがいの克服は,力の発見に大いに役立つ。というか,これを克服しないと,力学への理解はせいぜいマニュアルとしてのきわめて浅いものにとどまらざるを得ないのである。

もちろん,

(1) おとながこどもを押す力
(2) こどもがおとなを押す力

この2つは,作用反作用の関係にある力であり,互いに大きさが等しく逆向きである。
しかし,おしくらまんじゅうはおとなの勝ちだ。おとなが前に出て,こどもが後ずさりする…という両者の運動を考えるには,おとなについてはおとなが受ける力のつりあい,こどもについてはこどもが受ける力のつりあいを考えるべきであり,互いに押し合う作用反作用の力を比べてもしょうがない。

おとなは,体重が重い分摩擦力も大きく,結果的にそれがこどもから押される力に勝り,前へ出ていく。逆にこどもが受ける摩擦力は小さくおとなから押される力に負けて後ずさりになるわけだ。

このかんちがいは,実に根深いものがあり,力学を学ぶ上でほとんどの人がきちんと克服できないままに,わかったつもりで過ぎていくと思われる。それがときどきとんでもないかんちがいとして首をもたげたりして,とまどってしまうのである。とまどうのはまだいい方で,多くの人がその誤りを意識することなく平気で「おとながこどもを押す力の方が強い」などとのたもうてしまうわけだ。

主人公とする着目物体は,つねにどれかひとつに決めなければならない。おとなを主人公にするなら,こどもが受ける力を見てはいけない。逆もまたしかりである。つりあいと作用反作用とを混同する誤りは,私の経験上では,実のところ予想以上に深刻なものであると思っている。最近の高校の教科書では必ずといっていいほど,この区別の問題に1~2ページを割いている。

(初稿:2011/02/21)