人にわかりやすく説明を試みることは,自分の理解を大いに深めることができるチャンス。その見本のようなQ&A。
質問は,
極性ベクトルは空間反転に関して符号を変える(向きが変わらない)
軸性ベクトルは空間反転に関して符号を変えない(向きが変わる)
という説明の意味を問うもの。
ここで,「空間反転」というのは座標軸をすべてひっくり返すことを指す。すると
親 指=軸
人差指=軸
中 指=軸
として「右手系」であった座標系は,「左手系」に移行する。
極性ベクトルは「空間反転」に際して座標の符号が正負反転する。
ベクトルに対して3軸反転した後の成分を「」をつけて表すと,
と,符号が反転する。
一方,軸性ベクトルはその定義から,正負の符号を変えない。
を極性ベクトルとするとき,
の符号は反転により変わるが,その積の符号はもとと同じだから,反転した座標系においてベクトル積の結果であるは座標系の反転に追随して方向を変えることになる。
座標軸がひっくり返っても私たちの宇宙がひっくりかえるわけではないので,たとえば私たちが受ける重力ベクトルそのものの向きは変わりない。重力ベクトルは明らかに極性ベクトルだ。ところが軸性ベクトルは,その他一切のベクトル演算のルールを左手系に引き継ぐためには,自らの向きを変えざるを得ない。たとえば,地球の自転の角速度,または角運動量は右手系で南極から北極へ向かうベクトルであるが,左手系では北極から南極へ向かうベクトルであるとしてやれば,左手系への移行に際してその他一切のベクトル演算が変更なく引き継がれるのである。これはベクトル積という演算が,
※は軸,軸,軸方向の単位ベクトル
となるように定義されていることからくるもので,すべての軸性ベクトルは回転と関わりをもっていることからわかるように,この軸性ベクトルの性質は,回転を回転軸方向のベクトルとして生成するベクトル積という演算に,その定義自体が依拠しているからだといってよいだろう。
(初稿:2011/02/02)