雪上スピード競技と体重

まさに今,話題に事欠かない冬季オリンピック。雪上でのスピード競技と体重との関係について。基本的には「次元」の問題?

同僚夫婦の会話(また聞きから推定)
妻「リュージュとかの競技は,体重が重いのと軽いのとでどっちが有利なの?」
夫「うーん,どうかなあ。ちょっとまてよ。体重が重くても軽くても摩擦の効果はあまりちがわないから,空気抵抗を比べると・・・」


物理にくわしい「夫」氏は,簡単な理論式を頭に思い浮かべて,空気抵抗を考慮したときの落下運動の終端速度 v_t が,物体の質量 m とともに増加することをするどく見抜いた。

速さ二乗に比例する(雪上のスピード競技の速さの下では二乗に比例が妥当であろう)空気抵抗の下で落下する物体の運動方程式は,

ma = mg - kv^2

v=v_t において,a=0 より

v_t = \displaystyle\sqrt\frac{mg}{k}

というわけだ。もちろん,競技は鉛直落下でないからその分割引になる。

ただし,空気抵抗の係数 k も体重によって変わると考えるべきだろう。したがって,この問題は本質的には「次元」の問題ということになりそうだ。すなわち,質量(体重)は体積に比例するから,代表的な長さ(たとえば身長) L の3乗にほぼ比例する。一方,空気抵抗は風を受ける面積にほぼ比例するとすれば,L の2乗に比例するだろう。つまり,重力は L^3 ,空気抵抗は L^2 に比例するから,体重が重い方が加速の効果がプラスになるというわけだ。

v_t = \displaystyle\sqrt\frac{mg}{k}\propto \sqrt\frac{L^3}{L^2} = \sqrt L

終端速度も重い方が大きくなり,代表的な長さ(身長)の平方根すなわち体重の1/6乗にほぼ比例するであろう。

1+\displaystyle\frac{{\it\Delta}v}{v_t} \propto \left(1+\frac{{\it\Delta}m}{m}\right)^{1/6} \simeq 1 + \frac{1}{6}\frac{{\it\Delta}m}{m}

50kgの体重が1kg増えると,1/300だけ終端速度が速くなる。リュージュで終端速度に達しているか知らないが,同程度の差が出ると考えていいだろう。45秒のコースタイムで0.15秒の差。リュージュは 1/1000秒を争う競技だから,とても無視できない差である。

リュージュでは,ウェイトを載せてもよいが,全体重量に制限があり,日本選手が重量オーバーで失格になったのは,記憶に新しいところである。

http://www.sponichi.co.jp/sports/news/2010/02/17/27.html

(初稿:2010/02/23)