ローカルなMLで,ゴルゴ13が制御不能になった人工衛星を宇宙空間で撃ち落すというシーンが話題になった。「無反動」だから和弓を選んだというのである。りくつのデタラメさはすぐにわかるが,射出時のダンパーの効果についてPhun(注:現Algodoo)でシミュレーションしてみた。
私は読んでいないが,ゴルゴのセリフには「弓は,射出ベクトルとモーメントが一致しているから。」というような,まことしやかな表現もあるとのこと。「空想科学読本」ではないが,このデタラメさははなはだしいものである。
※ ゴルゴ13の名誉のために,話題提供された方からその後追加されたコメントを追加しておく。
『ちなみに件のストーリーをもう少し詳しく紹介しますと,合衆国から,SDI(戦略防衛構想)の為に極秘裏に打ち上げられた,DEW(指向性レーザー兵器)で武装されたASAT(衛星破壊衛星)を永遠に眠らせてくれとの依頼を受けたゴルゴが,和弓を武器として選び,弓道を習います。それは,衛星に近づくと感知されてレーザーでやられてしまうし,金属性のもの(例えば弾丸など)を使っても同じ事。また小型軽量なため宇宙船内への持ち込みも問題ないという理由からです。そのことをロシアの宇宙局(軍?)関係者がNASA職員に解説するわけですが,その中に「射出ベクトルとモーメント方向が一致している弓矢なら,無反動射撃が可能だ!」という台詞が出てくるのです。(作品名は『一射一生』)』
無反動で宇宙遊泳中の自分に影響を与えないという意味と理解した。もちろん,実際には弾丸の射出速度が同じであるならば,射出の力が火薬の爆発によるものであろうと,ばねや弓の弾性力によるものであろうと,反作用として自分が受ける力積は変わらないから,結果は同じである。弓を使う利点は,単に射出速度が小さくて自分が受ける反作用の力積も小さいということに他ならない。それだけ衛星を撃ち落す威力も小さいわけだ。
「無反動」をいうなら,ダンパーつきのバズーカでも使うのがいいだろう。もちろん,砲身が可動になっていて,ダンパーが衝撃をやわらげる効果は厳然として存在する。ただし,それは決して「無反動」なのではなく,反動を受ける時間をのばして平均の力を小さくしただけであり,射出時に弾丸に与えたのと同じ運動量を自分が逆向きに得ることは避けられない。
ダンパーによる緩衝効果をPhunでシミュレートしてみた。
シミュレーションをするとあとから気づかされる点がけっこうある。
ダンパーなし(左)とダンパーつき(右)を比較すると,同じ射出速度を得るのにダンパーつきの方が埋め込みを深くとらなければならない。これは,ダンパーによる力学的エネルギーの損失を補わなければならないということに他ならないわけだ。射出速度が等しく射出側の質量が等しければ,射出側の最終速度も変わらないことが確認できる(初めに射出される円,次いで射出側をカメラ追跡する設定で実行してみるとよい)。
※Phunには「埋め込み射出」という手法があり,小物体を射出するのに他の大きな物体に埋め込むと,異常な「衝突状態」を回避するべく最も脱出経路の短い方向へ小物体が射出されるのである。
Phun (現Algodoo)の シーン
https://img.atwiki.jp/yokkun/attach/157/1499/Damper_0000.phz
(初稿:2009/08/20)