SFぶつり―重力編― SF-02
SF的近未来の地球上高速移動手段はいろいろ考えられるが,重力を直接利用しようという地球直貫トンネルは,実現可能性はさておき,なかなかユニークなものだ。
(1) ローカルなV字トンネル
まず比較的小規模のものを考えてみよう。
2地点A,Bを図のようなV字形トンネルで結ぶ。Aを初速0で出発した列車は,摩擦や抵抗を無視できるほど小さくおさえることができれば,Cまで重力で加速し,その後上り坂で減速してBに到着する。
C点の深さ が地球半径に対して十分小さく,したがって全行程にわたって重力加速度は に等しいものとすれば,AC間の列車の加速度は,
となるからAB間の所要時間 は,次のようになる。
ここで として近似をとった。このときC地点を通過する列車の速さは,
となる。 , とすると,
となり,東京-大阪間を20分ほどで行けることになる。このときのトンネルの傾斜角は6°ほどで,加速度は約1 m/s であり妥当なところだろう。
ところで,最大深度 と所要時間の関係はどうなっているだろうか? の増大とともに,所要時間の短縮はゆるやかになっていく。たとえば,上の計算で km としても ≒30 分なので,こちらの方がよさそうだ。このとき 443 m/s ≒ 1600 km/h である。 5 km では ≒43 分, ≒ 1100 km/h … トンネルを掘るのに要する手間は深さとともに飛躍的に増大するだろうから,妥協点をみつけることになろう。
(2) グローバルな直線トンネル
次はかなり飛躍するが,まさに地球を貫通するトンネルを考えよう。
半径 の地球上で,中心角 をなす2地点A,Bをつなぐ直線トンネルについて考察する。中央からの変位が のとき,地球中心からの距離は
このとき列車が受ける重力は,中心Oから半径 の内部から受ける万有引力に等しい。すなわち,
ただし,地球内部の密度は一様であるものと単純化した。
列車の運動方程式は,
運動は単振動となるから,AB間の所要時間はその周期 の半分に等しく,
となり, に依存しない。
なお, は地球に近接してとぶ人工衛星の周期に等しい。
また,速さの最大値 は,エネルギー保存により
となる。中心Oを通るトンネルでは より,
となるが,これは第1宇宙速度すなわち上記の人工衛星の速さに等しい。
(初稿:2007/06/11)