自転による遠心力を考慮した重力ポテンシャル

20年前に書いた小論の再掲。

地上の重力が,おもに地球の引力と自転による遠心力の合力であることはよく
知られている(図1)。

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図1 引力と遠心力の合力


この合力 \boldsymbol{F} は,地球中心を原点にとった位置ベクトル \boldsymbol{r}=\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y} の地点にある単位質量について次のようになる。

\boldsymbol{F}=\boldsymbol{f}_G+\boldsymbol{f}_\omega=-GM\displaystyle\frac{\boldsymbol{r}}{r^3}+\omega^2\boldsymbol{x}

ただし,G万有引力定数,M は地球の質量,\omega は自転の角速度である。
成分に分ければ,

F_x=-GM\displaystyle\frac{x}{(x^2+y^2)^{3/2}}+\omega^2x

F_y=-GM\displaystyle\frac{y}{(x^2+y^2)^{3/2}}

と書ける。したがって遠心力を考慮した重力のポテンシャルは,

 U=-GM\displaystyle\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}-\frac{1}{2}\omega^2x^2

となる。

図2以下は,数学技術計算ソフトMathcadによるものである。ただし,遠心力を強調するために自転の角速度を実際の5倍にとっている。等重力面が回転軸方向にふくらむのに対して,等ポテンシャル面は遠心方向に ふくらむことがわかる。

極とポテンシャルが等しい赤道方向の半径がどれだけになるか計算してみよう。
極半径 r_p=6,357 kmとして,

 -G\displaystyle\frac{M}{r_p}=-G\frac{M}{x}-\frac{1}{2}\omega^2x^2

の解は x=6,368 kmとなった。

この値による地球の扁平率は本質的には同じ方法をとったホイ ヘンスの結果に一致する。

実際の赤道半 径 6,378 kmがこれより大きいことは考察に値する。内部圧力を考察(密度一 様とした)したニュー トンの値はより近く,形のひずみによる重力の非中心力項,さらには密度分布 を考えると実際に近い値が得られる。

潮汐摩擦による自転のおくれを考えて太古の自転速度による等ポテ ンシャル面を現在に 保存しているという荒唐無稽な「仮説」(=現在の極と赤道を以上の安 易なモデルで等ポテンシャルにする自転周期は17.3時間になるが,仮に現在の自転のおくれかたでさ かのぼると,これは約15億年前の自転周期に等しい。)も考えてみたが,この ような大きなタイムスケールでは,流動さえする部分をもつ地球は,もとの形 をとどめることは不可能であり,マユツバにもならないだろう。

しかし,決して強くはないが巨大なスケールではたらく力の均衡のもとで,この地球が概して等ポテンシャル面に追随した形状を保っていること自体,感慨を禁じえない事実といえる。

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図2 遠心力を考慮した重力場
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図3 等重力面の形状
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図4 等ポテンシャル面の形状

【参考文献】
「力学―新しい視点にたって」
V.D.Berger and M.G.Olsson, 戸田盛和・田上由紀子訳 1975(培風館

(初稿:2002.02.18)