次のような質問を拾った。
「糸の張力を保存力としてあつかえるのはなぜか」
初め、趣旨がよくわからなかったが、次のような問題場面に関しての疑問である。
【問題】
ピンと張った長さ の糸の両端を固定し、中央に質量 の質点をつけた。質点を糸に垂直にはじいたときにおこる微小振動の周期を求めよ。重力は無視でき、糸の張力 は一定であるものとする。
【解答】
糸のつり合い位置からの角変位を とすると、質点の変位は近似によって と書ける。このとき復元力は、 と近似できるから、運動方程式は
これは単振動の方程式にほかならず、周期は
となる。
質量が無視でき伸び縮みしない、というのが理想化された糸であり、糸は通常単純な力の伝達装置としてのあつかいとなる。しかし、この場面では糸が伸び縮みしなければ質点の変位は考えられない。なおかつ、張力一定なのにもかかわらず、弾性エネルギーの変化が生じるという不思議な存在になっているのである。
糸をばねにおきかえて(弾性体として)考察してみた。
弾性力を一定とした近似がほどよい近似であることを、シミュレーションは示している。
この張力一定の近似は、弦を伝わる横波の1次元波動方程式を導出する考察においても現れる。今までは近似の所産として受け容れてきたが、確かによく考えてみると最もな疑問である。
そこで、弾性エネルギーと復元力のエネルギーを計算比較してみた。同じになるべきことは明らかだが、数学的に立証しようというわけだ。
復元力のエネルギー
張力は、糸(ばね)の自然長 として、
したがって、運動方程式は
復元力の係数は
であるから、復元力のポテンシャルエネルギーは
となる。
弾性エネルギーの増加分
ポテンシャルエネルギーは糸(ばね)にたくわえられるものである。そこで、ばねの伸びを考察して弾性エネルギーの増分を導出する。角変位 におけるばねの追加の伸びを とすれば、
ここで
より、
を適用すれば、
を得る。
変位角 を通じて、後者における伸びの弾性エネルギー増加がそのまま前者の復元力のエネルギーに反映されていることがわかる。