コンデンサーのエネルギー

【 問題】
電圧 V_1電荷 Q_1 に充電されたコンデンサーをより高い電圧 V_2 で追加充電して電荷Q_2 になったとする。電池が供給した仕事(電力量)\Delta W はいくらか。
 この問題の解答として,次のうちどれが正しいと思いますか?
(1) 
電圧 V電荷 Q に充電されたコンデンサーのエネルギーは,  U=QV/2 だから,その差が電池の供給した仕事である。
\Delta W=U_2-U_1=(Q_2V_2-Q_1V_1)/2

(2) 
電圧 V電荷 Q に充電するのに必要な仕事(電力量)は, W=QV だから,その差が電池の供給した仕事である。  
\Delta W=W_2-W_1=Q_2V_2-Q_1V_1

(3) 
追加する電荷は,\Delta Q=Q_2-Q_1 だから,これを電位差 V_2 だけ引き上げる仕事を電池が供給する。したがって,
\Delta W=\Delta QV_2=(Q_2-Q_1)V_2

 どれも正しいように思えて,迷いませんか? この迷いを解くカギは,コンデンサーを充電する仕事(電池が供給するエネルギー)QVコンデンサーに蓄えられるエネルギー QV/2 の差がどこからくるのかを理解することにあります。

コンデンサーのエネルギー

 コンデンサーに蓄えられるエネルギーが QV/2 であることは,コンデンサーの放電によるエネルギー放出を考えるとわかりやすいと思います。
 はじめの電位差は V ですが,電荷の流出 \Delta Q とともに電位差 V(Q) は減少していきます。全放出エネルギーは,V(Q)\Delta Q の総和(積分)となり,右図の三角形の面積に
相当します。したがって,コンデンサーに蓄えられるエネルギー U は,

U=\displaystyle\frac{1}{2}\frac{Q^2}{C}=\frac{1}{2}CV^2=\frac{1}{2}QV

となります。
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定電圧充電とジュール熱損失

 次に一定の端子電圧 V をもつ電池により,コンデンサ電荷 Q に充電することを考えます。このとき電池が供給する仕事(電力量)W は,電荷 Q を電位差 V だけもちあげるのですから,W=QV になります。しかし,コンデンサーに蓄えられるエネルギーは前述のように QV/2 でしかありません。あと半分のエネルギーはどこにいってしまったのでしょう? 結論からいえば Qコンデンサーまで移動するときにジュール熱として失われたのです。
 たとえば,充電のはじめにはコンデンサーは電位差 0 ですから,電荷の移動に要する仕事は 0 であるにもかかわらず,電池は電位差 V までもちあげてしまうのです。コンデンサーにおさまるまでに電荷は電位差 V をおっこちて外部に仕事をします。真空中では電荷が加速されて運動エネルギーになるわけですが,電流で学習したように導体中ではその分がジュール熱として逃げることになります。

 こうしてジュール熱の損失をともないながら電荷コンデンサーに移動していくと,しだいにコンデンサーの電位差も増加し,電池との落差が小さくなるにしたがって電流も減少していき,コンデンサーが満充電されるころにはジュール熱による損失も 0 に収束するというわけです。
 以上の量的な関係は,下図のようになります。
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コンデンサーの貯水池モデル

 電場を重力場,電位差を高さ,電流を水流にたとえることは理解を助けるよい類推になりますが,その線で行けばコンデンサーは貯水池ということになるでしょうか。このモデルでコンデンサーのエネルギーを考えることは理解の一助となるかもしれません。
 下図のように考えると,高さ V までもちあげられた電荷(水)はコンデンサー(貯水池)におっこちておちつく過程でエネルギーを失います。満杯になったときコンデンサー(貯水池)に蓄えられた電荷(水)の電場による(重力による)位置エネルギーは半分の高さ V/2(重心)に電荷 Q(水の質量)を集中させたのと同等になるわけです。
 電圧を徐々に上げながら微小な電流で充電すれば,ジュール熱による損失をおさえて電源の供給する仕事を QV/2 に近づけることができます。

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以上のことが納得できれば,最初の問題は「考えすぎる」ことなく正答が得ら
れるのではないかと思います。

(初稿:2001/05/07)