糸巻きまわりの回転運動

久しぶりに刺激的でおもしろい問題に出会った。

【問題】

固定されたなめらかな円筒に軽くて伸びない糸を N 回巻きつけ、一端に質点Pをつないで、他端を一定の速さ u で引く。初め、円筒に巻きついていない部分の糸は X 軸と平行になっている。Pは速さ u で円筒に近づいていくが、円筒に接触したのちは巻きついた糸をほどきながら円筒まわりを回転するようになる。質点が到達する最大速さを求めよ。運動はつねに円筒軸に垂直な一平面内で起こり、重力の影響は無視できるものとする。

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【ことのなりゆき】

正直のところだいぶ悩まされた。つい、運動方程式に走ろうとしかけたが、速さ u が一定にコントロールされているので、これは力学問題ではなく運動学の問題である。

すぐに気づくのは円筒に接触してから時間 t 後の状態において、ほどけた糸の長さが
l+ut = r\theta
となることである。

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Algodoo でシミュレーションして模索してみたところ、
 l = ut
となればよいことが先にわかった。これを認めれば、最大速さが運動学的に
V_{\rm max} = u \sqrt{1+(2\pi N)^2}
となることを示すことができる。これがシミュレーション結果と一致したのである。かくして、シミュレーションが誘導してくれたゴールをめざして、論理を構築するという刺激的で楽しい時間を過ごすことになったわけである。

【解答】

論理の説明としては、円筒を滑車とみなして糸が滑車の回転とともにすべらずにほどけていく、という設定に切り替えた方がよい。滑車は
 \omega = \displaystyle\frac{u}{r}
の等速回転にコントロールされているから、運動学的な条件は変わらない。

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質点が円筒から離れていくとき、質点を引く糸は円筒に対して相対角速度 \omega をもつ。糸は円筒に対して相対角速度 \omega でほどけていくのである。すると、糸と円筒の接点は外から見ると 2\omega で回転していくことになる。つまり、
\dot{\theta} = 2\omega
が成立する。
l + ut = r\theta
\omega = \displaystyle\frac{u}{r}
に対して適用すれば、
l = ut
となる。つまり、円筒から引かれる糸の長さと質点がほどいていく糸の長さは同じになる。

質点の速度 V を、上に示したように引いている糸方向の成分 u と糸に垂直な成分 v に分解すれば、

V = \sqrt{u^2 + v^2} = \sqrt{u^2 + (l\dot{\theta})^2}

しかるに、

l\dot{\theta} = ut\cdot \displaystyle\frac{\theta}{t} = u\theta

だから、

V = u \sqrt{1 + \theta^2}

となり、最大速さ

V_{\rm max} = u \sqrt{1+(2\pi N)^2}

を得る。

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