地球-月公転による遠心力について

東大の入試に、潮汐力と地球-月系の公転における遠心力に関わる問題が出された。かつて、この問題は小論にまとめたことがあったので、再掲しておく。

潮汐

潮汐の原因の説明として,月の引力と地球-月公転による遠心力の差としての「潮汐力」がとりあつかわれる [注]。万有引力の法則

 F=G\displaystyle\frac{m_1m_2}{r^2}

から,地球上の位置によって月からの距離 r が変わるから月の引力も少しずつ変化することは理解しやすいが,公転による遠心力については一般に十分な説明がなされないことが多く,誤解されることも多いようである。

図1 潮汐


月の引力と遠心力との関係について,図1のような図解をよく見かけるが,遠心力が地球上の各点で同じであることについては,たとえば「地球は剛体であるから遠心力が各点で等しくなければバラバラになってしまう。」などの間接的で誤解を生むような説明が多い。

重心まわりの地球の公転

地球-月系の公転を考察する場合,全体の重心が公転の中心になるが,それが地球内部にあることが,問題をわかりにくくさせている(図2)。

図2 地球-月公転系

不用意にこの図を見ると,地球上の各地点における遠心力が大きさはおろか向きまで同じであるとは考えにくい。つまり,月に面した地点は反対側に比べてより小さい半径で逆に動くように見えてしまうのである。実際,これは錯覚にすぎない。

遠心力が同じであること

前記のような誤解は,地球-月公転系を太陽系の運動からはもちろんのこと,地球の自転からも明確に切り離した議論であることを忘れてしまうことによっておこる。つまり,公転とともに地球をうっかり「自転」させてしまうのである。
図3によって地球-月系において「自転」しない地球上の定点が,その位置にかかわらず同じ半径の円周上を同じ向きに運動することが把握されると思うが,どうだろうか。時間が過ぎると定点は月に対する位置を変えてしまうが,遠心力は瞬間の加速度によってのみ決まるからそれに悩む必要はない。

図3 地球上の定点の運動


(初稿:2002.02.09)

[注]
潮汐力は単に天体からの距離の差によって生じる引力の差にほかならない。しかし、地球中心において月の引力は「公転」の遠心力とつりあっているので、地球中心と着目地点の引力の差という意味で、「引力と…遠心力の差」という表現を用いている。