一般相対論のきわめて身近な応用の好例。
GPS衛星は地上との交信を通じて,地上局(GPSアンテナ)の位置を割り出すデータをやり取りするうえで,地上の時刻とぴったりあった時計を必要とする。しかし,地球重力と地球周りの公転のために相対論的な補正が必要となる。1日当たりの補正は微々たるものだが,それが積み重なると精密な測地のためのデータにばかにならない誤差となるわけだ。
よく,必要な時間補正に対して重力による一般相対論的な部分と,公転速度による特殊相対論的な部分とに分けてどちらが大きいかという比較がなされる。結果として,重力による一般相対論的な効果が勝り,衛星上では地上より時間が進むといわれる。しかしながら,本来特殊相対論は一般相対論の中に包含されるため,特に別途計算(しようと思えばできるが)する必要はない。
球対称重力場による時空の歪みの表現として,ブラックホールの存在予測にも使われている,シュヴァルツシルト計量というものが計算の土台となる。地球質量 ,万有引力定数 ,光速 として,半径 における時空の計量は,
ただし,球座標において
地球の自転を無視できるものとすると,地上時間 は,地球半径 に上の計量を適用して,
は,無限遠の平坦な時空における時間を示す。GPS衛星の速さ は,
:衛星軌道半径
となるから,衛星時間 は,
上の2つの計量によって,地上時間と衛星時間の関係
を得る。
公転は等速円運動であるとして,円運動の方程式は
したがって,
となる。さて, は明らかであるから,時間補正は 対して1次の近似をとれば充分であろう。
補正の割合を計算すると,
具体的な数値
を代入すると, を得る。1秒に対して約20億分の1秒。100年で1.4秒という小さなものであるが,測地データのずれとしては無視できないものとなるのである。
(初稿:2010/11/05)