糸でつながれた2質点の運動

糸の張力を求めるときに、円運動の中心をどこに置けばよいか…なかなかの難問。
【問題】
長さ l の軽くて伸びない糸でつながれた、質量 M の質点Pと質量 m の質点Qがあり、Pは水平レール上を摩擦なく滑り、Qは水平位置から振り子運動をする。糸はつねにまっすぐ張っており、レールと干渉しないものとする。
(1) 糸が鉛直になったときの、P,Qの速さ V,v を求めよ。
(2) 糸が鉛直になったときの、糸の張力の大きさ T を求めよ。
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※鉛直になった後、Pはレールを離れてP-Qは回転しながら落下。重心運動の考察に入るが省略。

【解答】
(1)
水平方向の運動量保存

MV - mv = 0

力学的エネルギー保存

 \displaystyle\frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}mv^2 = mgl

2式連立して

v = \sqrt{\displaystyle\frac{2Mgl}{M+m}}
V = \displaystyle\frac{m}{M}\sqrt{\frac{2Mgl}{M+m}}

を得る。

(2)
ここからが問題である。円運動の問題として向心力の一部を担う張力を求めるのだが、円運動の中心をどこにとればよいか迷う。

【直感1】
Pは動いているが、P‐Qの重心は瞬間静止している。したがって、瞬間回転中心である重心まわりの円運動として考えればよいだろう。

【直感2】
Pから見たQの相対運動は間違いなく円運動だから、Pまわりの円運動として考えればよいだろう。

どちらも正しく考察すれば同じ結果を得るだろう。しかし、果たしてどちらが簡明か? 普通の優等生は【直感1】を選ぶだろう。【直感2】は運動するPに乗るので、運動方程式の成立に疑義があるからだ。慣性力を考えなければならなくなる。
しかし、あにはからんや…簡明なのは【直感2】なのである。【直感1】こそ慣性力を考慮しなければならない。

Pから見た運動方程式

\displaystyle\frac{m(V+v)^2}{l} = T - mg

したがって、

T = \displaystyle\frac{3M+2m}{M}\cdot mg

を得る。

重心は落下してきて減速し静止にいたっている。したがって、重心系は上向きに加速度をもつ非慣性系である。したがって、重心系では慣性力を考慮しなければならない。外から見た立場では、Qの運動は重心を中心とする円とはなっていないのである。図の小さい方の円が鉛直になった瞬間のQの運動の曲率半径に一致する半径の円、大きい方の円が重心を中心とする円。
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一方、Pから見た立場は慣性系に乗っている。糸が鉛直になった瞬間、力の水平成分は消失し、その一瞬だけP系は加速度0の慣性系になる。Pから見たQの相対運動は円運動にほかならないから、上のように円運動の方程式を慣性力の考慮なしに素直に立式することができる、というわけである。