衝突パラメータと散乱角

軌道方程式を経ずに散乱角と衝突パラメータの関係を得る。

【問題】

x-y 座標原点に固定された原子核Zがあり,座標の第一象限から質量 m の陽子が初速 V_0 ,衝突パラメータ b原子核Z方向へ x 軸に平行に発射される。発射後,原子核Zに近づくにつれて陽子は散乱されて進行方向を変えていく。陽子の軌道上で原子核Zから r だけ離れた点Pにおいてはたらくクーロン斥力は F =k/r^2 で表されるものとする。散乱後,原子核から十分離れたときの陽子の速度の,初速度に対する角度(散乱角)を \phi とする。

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(1) 任意の点P(極座標(r,\theta) )における速度の y 成分を V_y とするとき,y 方向の運動方程式を書け。

(2) b\phi の関数として求めよ。

※Algodooの設定は,k=1.0 [Nm^2],b=1.0 [m],V_0=2.0 [m/s] である。

Algodooシーンのダウンロード
http://www14.atwiki.jp/yokkun?cmd=upload&act=open&pageid=411&file=Scatt.phz

【解答】

ラザフォード散乱の軌道 - 科学のおもちゃ箱@Hatena
において,極座標によるクーロン散乱の軌道を次のように得た。

\displaystyle\frac{1}{r} = \frac{\sin\phi}{b} +  \frac{2Ze^2}{4\pi\varepsilon_0mv^2b^2}(\cos\phi-1)

今回の問題に合わせると,

\displaystyle\frac{1}{r} = \frac{\sin\theta}{b} +  \frac{k}{m{V_0}^2b^2}(\cos\theta-1)

であり,左辺をゼロとする(無限遠の)極限で \theta = \pi - \phi となることから,

b = \displaystyle\frac{k(1+\cos\phi)}{m{V_0}^2 \sin\phi}

を得る。今回の問題の題意は,もちろんやっかいな軌道方程式の導出はショートカットしようというものであろうことは推測できたが,その道筋をみつけるのには結構手間取った。

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(1)

求める運動方程式y 成分)は,

 m \dot{V_y} = \displaystyle\frac{k \sin\theta}{r^2}

(2)

角運動量保存により,

 V_0 b = r^2\dot{\theta} \qquad \therefore r^2 = \displaystyle\frac{V_0 b}{\dot{\theta}}

これを(1)の結果に代入して,

m \dot{V_y} = \displaystyle\frac{k \sin\theta\cdot\dot{\theta}}{V_0 b}

時間積分して,

m V_y = -\displaystyle\frac{k \cos\theta}{V_0 b} + C

\theta = 0 で,V_y = 0 より,

 C = \displaystyle\frac{k}{V_0 b} \qquad \therefore V_y = \frac{k(1-\cos\theta)}{mV_0b}

\theta=\pi-\phi のとき,V_y = V_0 \sin\phi より,上式に代入して,

V_0 \sin\phi = \displaystyle\frac{k(1+\cos\phi)}{mV_0b}

b について解くと,

b = \displaystyle\frac{k(1+\cos\phi)}{m{V_0}^2 \sin\phi}

を得る。

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(初稿:2010/07/14)