物理学上で「回転変換」というと、座標軸の回転による座標変換であるというイメージをもつだろう。しかし、ロボット工学などテクニカルな分野では、座標軸の回転ではなくあくまで対象となる物体の回転による座標点の移動を「回転変換」と呼んでいる。両者は数学的に明確な対応があるが、テクニカルな分野においてはこれを「座標変換」などと言ってしまうこともあり、必然的に生じる混乱を避けることができないのが現状である。
座標系 - を 軸まわりに角度 だけ回転させた座標系を - とすると から への座標変換は
となる。これを
と書くことにしよう。
一方、工学分野では剛体に固定した座標系 における点 に着目し、剛体を 軸まわりに角度 だけ回転させることを考える。着目点の移動先の座標を とするとき、回転変換は
であるとする。これを
と書くことにしよう。この を「回転行列」と呼ぶ。
結局のところこれは、座標系の角度 の回転による座標変換と同じであり、 の関係にあることは言うまでもない。そのために と の役割が逆になっている点が紛らわしい。
さらに静止系の座標系を として、 を から への「変換」などと呼んだり、さらに深刻なことには「座標変換」と言い切ってしまったりすることがある。これでは、混乱を起こさない方が無理というもの。少なくとも「座標変換」はやめてほしいものだ。
参考:
【図解】同次変換行列による順運動学の解法【Pythonコード付】 - Qiita
工学分野でこのように「回転変換」を定義するのは、応用面での簡明さが理由となっていると考えられる。ロボットアームの「手先(エンドエフェクタ)」の座標を求めるのに、静止系に回転軸をもつアーム1の角度 の回転 と、その先に連結したアーム2のアーム1に対する角度 の回転 の結果として
と順に「変換行列」を並べることができるわけだ。なお、実際には にはアーム長による平行移動が含まれるが簡単のため無視した。
これを座標変換として記述すると
となる。これは、
となることに即しているのである。